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マゾ非人間化宣言が全世界で採択され、マゾは人権を失い女性に従属する所有物としてのみ生きる事が許されている

マゾは女性に対して絶対服従し、虐められる事を喜びとし、虫けら以下の存在として蔑まれている。

その個体は、マゾ奴隷と呼ばれ売買の対象にもなっている。S嗜好の女性のための玩具としても有用

中には未だに出頭しないマゾもいて、マゾハンターやマゾ管理局はマゾ捜査を続けている

(18歳未満閲覧禁止です


通 報(心理・後日談)―1


作者 namelessさん

ボード大学4年で22歳の藤本直樹は、パソコンのキーから手を放し、着信音がしたスマホの画面をタップした。すると画面には、ネットニュース速報〈マゾ管理局からの強い要請により、文部科学省は本年度から中学卒業前の全生徒に対して、故・中原教授の心理テスト義務化を決定〉が表示された。

 ネットニュース速報を消去して、スマホを机に置いた直樹はため息をつき、

(やれやれ、ますます息苦しい世の中になるな…)

と内心呟いた。ネットニュース速報に表示されていた“故・中原教授の心理テスト”というのは、その人間がサド傾向かマゾ傾向かを調べるもので、男性マゾヒストを探す出すための心理テストであるのを、直樹はネット情報で知っていた。



4年前に直樹が高校3年生だった時、女性初の総理大臣である大泉怜美が“異常性欲者隔離収容法”…後日“マゾ男人権剥奪法”に改正…の法案を成立させた。怜美は、外交を通じて半年後には国連に“マゾ非人間化宣言”を採択させ、“マゾ男人権剥奪法”を全ての国に批准させた。その結果、全世界のマゾ男達が女性マゾ捜査官に逮捕されてマゾ強制収容所に送り込まれ、女性看守から酷い虐待と調教を受けて、女性に対する絶対服従の精神を骨の髄まで叩き込まれてから、一般の女性達にマゾ奴隷として下げ渡されるようになった。

“マゾ男人権剥奪法”が日本で施行されると、絶対的権力を持つマゾ管理局が設立され、令状無しで逮捕・勾留が出来る強い権限を持つ女性マゾ捜査官(通称マゾハンター)からマゾヒストと認められた男は、その場で人権を剥奪されて逮捕され、全ての私有財産をマゾ管理局に没収されてマゾ強制収容所に連行され、女性看守から酷い虐待と調教を受ける羽目になった。

 “マゾ男人権剥奪法”が施行される10年前、日本政府はテロ行為や組織犯罪防止のために、全国民に国民カードの登録を義務付け、その際に個人の生態情報である指紋・静脈・虹彩・DNA等を全て登録させて、国が一括管理した。また、電話やネットの通信履歴も、全て国の管理下に置かれた。

“マゾ男人権剥奪法”施行後、マゾ男狩りの嵐が吹き荒れて、SMクラブやハプニングバーに通っていたマゾ男達は、当然マゾ管理局マゾハンターによって真っ先に逮捕された。そんな所に行っていなくとも、ネット通販でマゾ雑誌やマゾDVDを購入した記録があったり、パソコンやスマホでネットのマゾサイトやマゾブログを見ていただけのマゾ男達も、マゾ管理局に通信履歴を調べられて、マゾハンターに逮捕された。勿論、周囲の人間から“あの男はマゾです”とマゾ管理局に通報されて、マゾハンターに逮捕されるマゾ男も多かった。

全国のマゾ男達は震え上がり、所持しているマゾ雑誌やマゾDVDを、空き地や山中に不法投棄した。しかし、投棄物の鑑識作業が必ず行われ、マゾ雑誌やマゾDVDに指紋が付いている場合は勿論、唾・汗等の体液が少しでも付着していれば、DNA鑑定により身元が判明して逮捕された。

マゾ男が自らマゾ管理局に出頭して“私はマゾ男です”と自首すれば、人権は剥奪されるが“所有権利人願書”を渡す女性を指名する事が出来る。“所有権利人願書”を渡された女性が了承すれば、その女性に私有財産を全て差し出し、その女性所有のマゾ奴隷になれて、マゾ強制収容所行きは免れる。これがマゾ男にとっては、唯一救いの道だった。もっとも、所有者である女性の機嫌を少しでも損ねたりすると、直ちにマゾ強制収容所に送られてしまうが…。

マゾ管理局所属の女性マゾ捜査官(通称マゾハンター)に逮捕されてマゾ強制収容所送りになったマゾ男の家族は、世間から白い目で見られて後ろ指を差され、勤めていた会社を辞めたり、通っていた学校から転校したり、夜逃げしたりと言った気の毒なケースが相次いだ。そのため、政府は家族に身内のマゾ男を戸籍から抹消する除籍を、特例として認めるようになった。家族がマゾ管理局に提出するマゾ男の除籍謄本は、世間では“絶縁状”と呼ばれた。



パソコンに向かってキーボードを叩き、卒業論文作成の続きを始めた直樹は、

(日本も段々、ジョージ・オーウェルの「1984年」みたいなディストピアに近づいてきたな…)

と憂鬱な顔になった。

直樹は現在、45歳で義母の真紀子と18歳で義妹の良美との、3人で一軒家に住んでいた。直樹の実母は、彼が幼稚園に入る前に病死した。高校教師の父親は直樹を男手一つで育て上げ、彼が小学5年生になった頃に、職場で知り合った同じ高校教師の真紀子と再婚した。真紀子はバツイチで、当時小学1年生の良美という一人娘がいた。実母の記憶が殆ど無く、母親の愛情に飢えていた直樹は、美しく優しい真紀子が義母になってくれて、大喜びした。真紀子も直樹に愛情深く接してくれ、4歳下の良美は直ぐ彼になついて、いつも纏わりつくようになった。

しかし、親子4人で仲良く幸せに暮らしていた期間は短く、直樹が中学2年の時、父親が不幸にも交通事故で亡くなってしまった。直樹は嘆き悲しんで部屋にしばらく閉じ籠ったが、それでも義母の真紀子が愛情深く彼を支え、義妹の良美も心配して寄り添ってくれた。2人のおかげで何とか立ち直った直樹は、亡き父親の保険金で高校と大学に進学することが出来て、3人の生活費は高校教師の真紀子が担った。大学で法律を専攻して、都内の大手法律事務所に就職が決まっている直樹は、早く司法試験に合格して弁護士になり、自分を育ててくれた義母の真紀子に恩返しがしたいと常々考えていた。

直樹がパソコンのキーボードを叩いていると、ノックの音がしたと同時にドアが開き、義妹の良美が、

「直兄ちゃん、晩御飯が出来たって」

と言いながら、部屋に飛び込んで来た。振り向いた直樹は、

「良美、返事も待たずに部屋に入るなって、前に言っただろ…」

と渋い顔をして文句を言った。しかし、良美は全然気にせずに、

「だから、ちゃんとノックしたじゃないの…それより、お母さんが直兄ちゃんを待ってるわよ」

と明るい声で返事をして、先に直樹の部屋を出て行った。直樹はやれやれと頭を振ってパソコンをシャットダウンし、2階の自室から1階のリビングに降りて行った。

 3人で食卓を囲んで夕食を摂りながら、義母の真紀子が、

「直樹さん、大学卒業まで3ヶ月になったけど、卒業論文は順調に進んでる?」

と直樹に訊ねた。天ぷらをほうばっていた直樹は、

「大丈夫ですよ、お義母さん…提出期日には、余裕で間に合いますから」

と笑顔で答えた。義妹の良美が、

「本当に大丈夫なの?直兄ちゃんは、小学生の時から夏休みの宿題だって、二学期の前の日に慌てて片付けてたからねぇ…」

と茶化すように言ったので、

「おいおい、良美こそ、高校3年の受験生だろ?人の事を心配する余裕があるのか?良美だって、夏休みの宿題が分からずに、よく泣きついてきたじゃないか」

と直樹は言い返し、食卓に笑いを添えた。直樹は、45歳の年齢でも美しく優しい真紀子と、成長して女らしく綺麗になった18歳の良美と仲良く夕食を摂りながら、この家族団欒を絶対に壊したくないと切実に思った。



実は、直樹は隠れマゾヒストだった。直樹が、自分はマゾだと気が付いたのは、彼が高校に入学して直ぐのことだった。学校帰りに寄り道した本屋で、たまたま立ち読みしたアダルト雑誌に、グラマー美人のお尻で顔を押し潰されるマゾ男のグラビアがあり、それを見た直樹は、射精しそうな程に勢いよく勃起してしまったのだ。グラビアに付随する記事には、サディスティンに対するマゾ男の憧憬が切々と綴られていた。それをざっと読んだ直樹は、股間部の突っ張りを隠すために、その場にしゃがみ込んだ。

少し気を落ち着かせた直樹は、他の読みたくも無い雑誌2冊でそのアダルト雑誌を挟み、一緒にレジへ持って行った。レジの若い女性店員は、高校の制服姿でまだあどけなさが残る直樹と、普通の雑誌2冊に挟まれたアダルト雑誌をチラリと見比べたが、商売第一と割り切っているのか、素知らぬ顔でレジの清算を済ませ、3冊共そのまま紙袋に入れて彼に手渡した。

帰宅した直樹は、2階の自室に入るとしっかり鍵を掛けて、購入したアダルト雑誌を開き、直ぐにオナニーした。今までもオナニーはこっそりしていた直樹であったが、この時はあっと言う間に射精してしまった。

それ以来、直樹はマゾ雑誌を買い求めるようになった。しかし、まだ高校生で義母の真紀子にそれ程小遣いをせびる訳にはいかなかった直樹は、自転車で遠くの古本屋をあちらこちら回り、乏しい小遣いで読み古されたマゾ雑誌や中古のマゾDVD安く購入した。

直樹はマゾ男のサイトやブログ、それとマゾ動画を見たかったのだが、何度厳しく注意しても義妹の良美がしょっちゅう彼のパソコンとスマホを勝手に使うので、履歴から自分のマゾ性癖がバレるのを恐れて、自分のスマホとパソコンは使用しなかった。その代わり、自宅から離れたネットカフェに偽名で会員カードを作り、そこでマゾ男のサイトとブログ、それにマゾ動画を楽しんだ。

高校時代の直樹は、そうしてマゾ趣味をこっそり楽しんでいたが、高校3年になった時に“マゾ男人権剥奪法”が施行され、彼は真っ青になった。マゾ男が未成年の場合、15歳未満はマゾ児童施設に送られて矯正教育を受けることになるが、15歳以上であれば中学3年生であっても、成人と同様に逮捕されてマゾ強制収容所送りなるからだ。もっとも、15歳未満で矯正教育を受けたとしても、マゾの性癖が治る筈も無く、15歳になった時点でマゾ強制収容所行きになるのは、火を見るよりも明らかだった。

勿論直樹は、マゾ雑誌やマゾDVDを買い漁るのは止め、ネットカフェにも行かなくなった。直樹は、自室に溜め込んだマゾ雑誌やマゾDVDの処分に頭を痛めたが、たまたま真紀子が溜め過ぎた家庭ゴミを、市のゴミ焼却場に持って行く機会があった。直ぐに直樹は、真紀子にお手伝いすると申し出て、大量の家庭ゴミの中に溜め込んだマゾ雑誌やマゾDVDをこっそり紛れ込ませ、彼女が運転するワンボックスワゴンに乗り込み、一緒に大量の家庭ゴミをゴミ焼却場の職員に引き渡して、目の前で焼却処分してもらった。

直樹は、マゾ雑誌やマゾDVDの購入にネット通販を使わず、自分のスマホとパソコンをマゾサイト等に繋げておらず、通っていたネットカフェの会員カードは偽名で作っており、溜め込んだマゾ雑誌やマゾDVDはゴミ焼却場で焼却処分してもらったので、自分がマゾ男であるとの証拠が一切残っておらず、日本全国に吹き荒れたマゾ男狩りの嵐から免れることが出来た。いくら厳しく注意しても、義妹の良美が自分のスマホやパソコンを勝手に使うのを直樹は苦々しく思っていたが、塞翁が馬と言うべきか、今となっては良美に感謝していた。

直樹は、もし自分がマゾ男だとバレて、マゾハンターに逮捕されマゾ強制収容所に送られたら、義母の真紀子と義妹の良美が世間から白眼視されて多大な迷惑を掛けてしまうのを、重々承知していた。そのため直樹は、自分のマゾ性癖は絶対に隠し通さなければならないと、常々自分自身に言い聞かせ、周囲にマゾ性癖を感づかれないよう、普段の行動・言動には細心の注意を払っていた。



 翌日の昼、大学内のカフェで直樹は、同じゼミの同級生である有村真帆と話しをしていた。真帆は古風な日本女性らしい小柄な美人で、普段の言動も控え目で大人しいのだが、今日の彼女は違っていた。

「…直樹君が、美鈴さんとおつき合いしているのは、私も知っているわ。美鈴さんとは同じ女子寮だし…でも、私にも振り向いて欲しいの…卒業まで後3ヶ月になってしまったし…」

 普段の控え目な大人しい真帆に似合わず、直樹が別の女性と付き合っているのを知った上で、自分と付き合って欲しいと、大胆な要求をしていたのだ。

端正な顔立ちの直樹は、痩せ型で身長178cmと背が高く、爽やかな雰囲気のイケメンなので、彼に思いを寄せる女子学生は多かった。しかし、隠れマゾヒストの直樹は、女性と普通の交際が出来る自信が無く、今までは女性との付き合いを全て敬遠していた。しかし2ヶ月前、同じ大学で同級生の大道寺美鈴から積極的に言い寄られた直樹は、彼女の強引さと勢いに断り切れず、仕方なく付き合いを始めた。

裕福な家の一人娘で甘やかされて育った美鈴は、真帆とは真逆であり、目鼻立ちがくっきりとした大柄な美人で、我が儘で気が強く、男を振り回すタイプの女性だった。実際に付き合ってみると、美鈴の我が儘で身勝手なペースに振り回されっぱなしで、直樹はヘトヘトに疲れる程だった。一週間前には、美鈴は直樹に彼の自宅へ強引に連れて来させ、義母の真紀子と義妹の良美に自分を恋人だと彼に半ば強制的に紹介させて、二人を驚かせた。普通の男なら疲れ果てて別れるところだが、逆に直樹は自分のマゾ性癖を刺激されて内心快感を覚え、つき合いがそのままズルズルと続いていた。

 直樹は困った顔をして、

「ごめん、真帆さん…僕を好いてくれるのは嬉しいけど、美鈴さんを裏切る訳にはいかないよ」

と断ると、真帆は粘り、

「でも、直樹君が美鈴さんに振り回されて疲れ果てているのを、私は見るに堪えないわ…どうして直樹君は、美鈴さんとのお付き合いが続けられるの?大学に入った時から美鈴さんを知っているけど、今まで彼女と付き合った男子学生は皆、1ヶ月も経たない内に逃げ出して別れたのに…」

と問い掛けた。直樹は、

(普通の男なら、そうするだろうな…)

と内心思いながら、

「悪いけど、他人の付き合いに口を挟まないでもらえるかな…僕のことは、忘れてくれ。それじゃ、失礼するよ」

と言ってテーブルの伝票を手にし、席を立った。

「直樹君…私、忘れないから…」

と言う真帆の言葉が直樹の背中を追い掛け、彼に何か嫌な予感をさせた。



 その日の午後8時前、寝間着代わりの灰色スエットを着ていた直樹は、夕食の団欒後に2階の自室でパソコンに向かい、卒業論文の作成をしていた。すると、いきなりノックの音と同時にドアが開き、義妹の良美が部屋に飛び込んで来た。振り返った直樹は渋い顔をして、

「良美、いい加減、返事を待ってからドアを開けろよ」

と良美に注意した。しかし、良美はそれどころじゃないと言う風に、

「直兄ちゃん、マゾハンターが直兄ちゃんを訪ねて来たのよ!」

と焦った口調で直樹に告げた。驚愕した直樹は、口から心臓が飛び出しそうになった。

(なぜだ?自分がマゾだと、誰も知らない筈なのに…なぜ、バレたんだ?)

 直樹が内心パニックになっていると、

「直兄ちゃん、ぼうっとしてないで、早くリビングに行って!」

と良美から急かされた。直樹は出来るだけ平静を装って、

「ああ、分かった…何かの間違いだろう」 

と言って、部屋を出て階段を下り、リビングに向かった。リビングには義母の真紀子と、ダークグレーのスーツを着込んだ20代後半の美しい女性二人が椅子に座っていた。スーツ姿の女性二人は椅子から立ち上がり、リビングに入って来た直樹に身分証を呈示して、

「藤本直樹さんですね…私は、マゾ管理局マゾ捜査官の柏木夏希と申します」

「同じく、麻丘絵美と申します」

と名乗った。直樹が些か上ずった声で、

「あの…僕が藤本直樹ですが、一体何の御用なんでしょうか?」

と訊ねた。柏木夏希と名乗った目力の強い美人マゾ捜査官は、

「実は、藤本直樹さんがマゾヒストだと、匿名の通報がありまして…それで、こちらに伺ったのです」

と答えた。義母の真紀子は、

「そんなの、絶対嘘です!息子の直樹がマゾだなんて、ありえません!」

と少しヒステリックな声で直樹を庇った。義妹の良美も、

「そうよ!直兄ちゃんが、何でマゾなのよ!絶対に何かの間違いだわ!」

と声を張り上げた。マゾハンターの柏木夏希は少し苦笑いして、

「多分そうでしょう…何しろ、別れ話を切り出されたり、言い寄って振られたというだけで、相手の男性をマゾだと通報する女性が多いものですから…ただ通報があれば、我々も一応捜査しなければなりませんので、それはご理解願います」

と説明した。それで直樹は、ピンときた。

(これは、有村真帆が通報したに違いない…)

 マゾハンターの夏希は、

「それでは、お母さん、椅子を2脚お貸し下さい」

と真紀子に言って、椅子を向かい合わせに配置した。それから直樹を椅子に座らせ、自分は向かい合った椅子に座った。麻丘絵美は直樹の両手首にリストバンドを装着して、それから伸びているコード端末をタブレットに差し込み、そのタブレットを座っている夏希に渡した。夏希は対面に座っている直樹に、

「これから、簡易ポリグラフ検査を行います。何の反応も出なければ、我々はこれで直ぐに引き揚げます…藤本直樹さん、まずは深呼吸し気を落ち着かせて、リラックスして下さい」

と優しい口調で伝えた。



 夏希が説明した通り、実際にマゾ管理局は虚偽通報の多さに頭を痛めていた。何しろ、夫婦仲が悪くて離婚したい妻が夫を、別れ話を切り出された女性が相手の男を、厳しく叱責されたOLが男性上司を、ご近所トラブルを起こした主婦が相手の主人を、推薦を却下された女子高生が男性教師を逆恨みして、「あの男はマゾです」と匿名で通報するのだ。中には、仕事上のライバルを蹴落とすために、男が男を通報する場合もあった。あまりにも悪質なので、マゾ管理局は通話履歴を調べて通報者を特定し、誣告罪で警察に逮捕してもらうようにしているのだが、それでも虚偽通報は後を絶たなかった。そのため、通報があってもいきなりマゾ男として逮捕するのではなく、先に簡易ポリグラフ検査を行い、陽性反応が出れば改めて精密判定検査を実施して、その結果で通報された男が、マゾ男かそうではないのかを判断するようにしていた。



 夏希は直樹に、

「今から、私が藤本直樹さんに質問しますから、全て『いいえ』で答えて下さい」

と告げてから、質問を開始した。

「あなたは、マゾヒストですか?」

「あなたは、女性の足元にひれ伏したいですか?」

「あなたは、女性の奴隷になりたいですか?」

「あなたは、女性から虐められたいですか?」

「あなたは、女性のお尻で顔を押し潰されたいですか?」

「あなたは、女性からハイヒールやブーツで踏みにじられたいですか?」

「あなたは、女性から鞭打たれたいですか?」

「あなたは、女性からペニスバンドで肛門を犯されたいですか?」

「あなたは、女性から舐め犬にされて、女性器を舐め回したいですか?」

「あなたは、女性から人間馬にされて、這い回りたいですか?」

「あなたは、女性から人間痰壺にされて、口に唾と痰を吐かれたいですか?」

「あなたは、女性から人間ナプキンにされて、生理の経血を飲まされたいですか?」

「あなたは、女性から人間便器にされて、おしっこを飲まされたいですか?」

 夏希の質問はまだまだ続き、直樹は出来るだけ平常心になるように努めて、冷静な声で「いいえ」と答え続けた。しかし、ハイヒール・ブーツ・鞭・ペニスバンド・舐め犬・人間便器等々、マゾヒストであればどうしても反応してしまう単語を並べられて、直樹は胸の鼓動が高まるのを自覚した。

 タブレットの液晶画面を見ながら、直樹に質問を続けていた夏希は、表情が段々と険しくなっていった。全ての質問を終えた夏希は、傍らに立っていた麻丘絵美に、

「リストバンドとコードを片付けて頂戴」

と指示し、直樹の両手首からリストバンドを外させた。

 夏希は大きな波形を描いているタブレットの液晶画面を、真紀子と良美の方に向けて、

「どういう訳か藤本直樹さんに、この通りマゾヒストの陽性反応が出てしまいました。しかし、これはあくまでも簡易ポリグラフ検査なので、今の段階では藤本直樹さんがマゾヒストだとは断定出来ません…ですから、我々に同行して、マゾ管理局で精密判定検査を受けて戴く必要があります。精密判定検査の結果が判明しましたら、ご家族には直ぐに連絡致します」

と説明した。真紀子と良美は言葉を失い、絶句して互いに顔を見合わせるだけだった。柏木夏希から椅子から立つように言われた直樹は、

「あの…ちょっと2階に行って、着替えてきます」

と言って立ち上がった。直樹は、寝間着の灰色スエット姿のままだった。しかし、夏希と一緒に来たマゾハンターの麻丘絵美は、

「いちいち着替えなくていいですから、さっさと同行して下さい!」

と険のある声で直樹に言い、夏希と二人で彼を挟むようにして、玄関から外に連れ出した。

 家の前には黒色セダンが停まっており、運転席には麻丘絵美、後部座席には夏希と直樹が座った。車が発進すると、夏希は先程までの丁寧な言い方とは打って変わって、

「さっきのポリグラフ検査ではっきりしたわ…藤本直樹、お前はマゾ男だね!」

と直樹にキツイ声で問い詰めた。慌てた直樹は、

「いえ、違います…僕はポリグラフ検査なんて、初めて受けるものですから、緊張して脈拍や鼓動が高まったんです。それで、陽性反応が出てしまったんですよ」

と必死に弁解した。しかし夏希は、

「ふんっ、それなら、波形の振り幅が平均して大きくなる筈だわ。お前の場合は、『いいえ』と答えた時だけ、波形が極端に大きく振れているのよ!お前がマゾ男だっていう、何よりの証拠だわ!」

と言って、直樹の弁解を一蹴した。がっくりとうなだれた直樹は、一瞬逃亡しようと考え、赤信号で黒色セダンが停まった時、そっとドアの取っ手に手を伸ばした。しかし、夏希はスーツ上着の内側から小型拳銃を素早く抜き、銃口を直樹の頭に突き付け、

「おい、マゾ男!逃げようと思っても、チャイルドロックが掛かっているから、内側からは開かないわよ。言っておくけど、少しでも逃げようとしたら、即射殺するからね!」

と警告した。射殺される恐怖に震え上がった直樹は、蛇に睨まれた蛙みたいに怯えて、金縛りに掛かったように動けなくなってしまった。
 
   
   
 

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